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日本食糧新聞に、「嶋谷光洋が説くファベックス成功の法則 ワークからプレイへ」が掲載されました
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嶋谷光洋が説くFABEX成功の法則
ワークからプレーへ
2018年4月11~13日開催の「FABEX2018」(「第21回ファベックス2018」「第15回デザート・スイーツ&ベーカリー展」)の初日は出展社20社以上に話を聞き、その後も数社を個別に訪問、電子メールでも問い合わせた。ニッセー、アマゾンジャパン、サンテックコーポレーション、キッコーマン、豊国ヌードル、ブルボンの6社が応じた。「成功の秘訣は当日運営をワーク(作業)からプレイ(ゲーム性)に組み立てることが長期的に成功を続けていくための鍵となるのではないかと感じた。営業変革実務者、人材開発プロフェッショナルとしての経験に基づき成功の法則をまとめた。
複数活用が戦略に連続性
サンテックコーポレーション(本社=東京都墨田区)は、ワッフルなどが焼けるマルチベーカー製造販売会社。ファベックス開始2年目から毎年出展、今年で20回目となる。小川智之社長は「2月に国際ホテルレストランショー、4月にファベックス、6月にカフェ喫茶ショーに出展している。ファベックス前と後にちょうどよい間隔で展示会があるので事前事後フォローは、2月と6月にできる」と言う。「特にファベックスはコンビニやスーパーが多いので大手の新規取引先開拓に有効だ」「1年に1回展示会でしか会えない人がいる。展示会があるから出てこられる人もいる。うちの会長もそうだが展示会で昔からの仲間と会えるのも楽しみになっている」と魅力を語る。
課題は秋から春にかけてだ。10月にファベックス関西があるものの6月から少し離れていること、2月にも少し離れている。「6月のカフェ喫茶ショーは国際食品工業展と同時期だったためか、海外顧客が多く流れてきた。展示会主催者は他の展示会と同時期に開催するなどシナジーを狙う考え方があってもよいのではないか。出展社のためになる」とも。
他の展示会と併せて活用しているというコメントする企業はほかにもあり、1年に1回の出展ではなく、この数年で毎年出展を一つずつ増やしている会社もあったことも踏まえると展示会は複数活用することで連続性のある営業戦略が構築できる面があると言えそうだ。
展示会を人材育成の場に
10年ぶりの出展となった豊国ヌードル(本社=奈良県大和郡山市)は、生パスタ・うどん・そば・ラーメンの製麺会社。乾文貴社長は「うちの強みは30kgからでも対応すること。大手にはできない小回りのよさをアピールしたい。販売強化、展示会を通して外食へ営業する、新しいことをやる。ファベックスはベスト3に入るから出ないといけないと思った」と10年ぶり出展の決断を語った。ファベックスは出展社が多いことも魅力と感じているという。早く来て出展社を回り関係づくりにも取り組んだ。「関東の展示会は毎回違う人が来場する。全国から来るし、とにかく人が多く、興味なかったら試食しない。関西は毎回同じ人で、興味なくてもとりあえず試食するから取引につながらない。そこが大きく違うと感じた」
長期的視点から学校給食にも取り組む。「子供がお母さんに、今日給食でニョッキ出たよ、と言うと、お母さんが、じゃあこんどニョッキ買って料理しようか、といった会話が生み出されることを期待している。それが積み重なって5年後、10年後に帰ってくればいい」
展示会出展は人材育成の場としても位置付けていた。コンパニオンは使わない。製造部門、事務員も手伝う。「事務員は調理が専門ではないが練習して参加する。おいしいと言われるとうれしい。そんな積み重ねが電話への対応に生かされる」。乾社長の発想は尽きることがない。
多様な大手新規開拓の機会
清涼飲料水製造業を主軸としているニッセー(本社=静岡県焼津市)は、飲料ボトルの新市場を一緒に開拓できるパートナーを見つけたいという目的で今回初出展した。高級感のあるボトル、コクのある味が新鮮。「和菓子を飲料にしたらどうか、200円でも高いと言われない。コンビニでも500円飲料を売ってみるとか、当たり前の商品ではなく高付加価値の商品を作りたい」(担当者)。“未来”を感じさせる。
展示会当日は途切れることなく商談があった。「期待していたコンビニ大手、流通大手が来てくれた」と成果を語った。同じようなコメントは他の出展社からも多数あった。特に大手への営業アプローチは容易ではないことを考えるとファベックスで大手新規顧客獲得機会をして位置づける戦略はありだ。
同社の課題は当日の運営。「初日商談数が多すぎて、顔と名前、内容の一致が厳しかったため、翌日からは記録を残す担当者を決めカメラマンを配置した」と機転は利いた。初出展ということもあり、初日は現場トップとしての責任感から休憩も食事もとれず午後3時以降に集中力が途切れてしまったという。5月上旬の時点でもスタッフをねぎらう“打ち上げ”がまだできていなかったことから、「来年からは最終日に必ずやる」と意欲。「商談数をこなすため、商談時間の配分は来年に向けてさらなる工夫をしていきたい」と課題に向き合う。
インナーマーケティングにつながった
江戸時代から日本の食文化を支えてきた醤油のトップブランドカンパニーであるキッコーマンは「デザート・スイーツ&ベーカリー展」での初出展。アレルゲンフリーの自然派食品「濃厚ライスミルク」とパン専用のトマト飲料「PANTO」を展示していた。出展目的はこれまで接点のなかったパンルートの開拓。期待通り、大手チェーンのデザート部門の他、加工品メーカー、飲料メーカーなど多種多様な企業と名刺交換できた、と担当者。成果を実感していた。意外な成果としては、メーカーがさまざまな使い方をしていることが分かったことだという。展示会は情報発信の場だけでなく、情報収集の場としても活用できるといえる。さらに、展示会をきっかけに社内のモチベーションが上がり、インナーマーケティングにも役立ったという。イベント出展は社内での意識改革のきっかけにもなるといえる。
ミニセッションで多人数への認知獲得
アマゾンジャパンは今回が初出展。目的は、2017年9月からスタートしたBtoB(企業間)向け購買専用サイトの認知獲得、中小食品メーカーの海外を含めた販路開拓を支援すること。同社が出展するだけでも十分話題となる。展示ブースもオープンな雰囲気。出入りしやすい設計で、ブース内に設置されたミニセッション形式が効率的に見えた。時間が決まっているため、説明を聞きたい人はその時間に集まる、あるいは歩いている人もその場で立ち止まって情報を得る。IT(情報技術)業界でよくみられる光景ではあるが、ファベックスではあまり見られない形式だ。プレゼンする商材にもよるが多人数への認知獲得には有効だろう。
新たな需要の発見
洋菓子メーカーのブルボンは、「高級な洋菓子店 パティスリーブルボン」をイメージしたブースを展開していた。展示ブースはいつ立ち寄っても盛況で、知名度のある同社の新商品への関心は高かった。立ち寄る人達も慣れ親しんだブランドに親近感のある表情だったと感じる。「スライス生チョコレート」というチルド商品を紹介していたが、「フローズンにすることで新しい需要が見込めることが分かった」(担当者)と意外な発見もあったとのこと。課題としては、「今回初出展ということもあり全ての人にうまく対応できず、機会を逸したという思いも否めない」(同)という。予想以上の来場者数にどの出展社も当日運営については課題があるといえそうだ。
成功法則の提案
今回、話をうかがって明確になったことが二つある。ファベックスは、日常では出会えない大手の新規顧客と接点が持てる場になっていること。もう一点は、当日の運営には、課題感をもっている出展者が多いこと。そこで展示会当日のブース運営について、他の産業の展示会の見聞、私自身の30年以上の人材開発プログラム設計経験、300チーム以上の180日間営業変革プロジェクト推進経験から四つの提案をしたい。
私が提唱しているチームマーケティング成功の法則では九つのプロセス(①チームを作る②ビジョンを描く③正しい危機感を持つ④大いなる機会を発見する⑤やめることを決める⑥チームで成功体験を重ねる⑦お祝いをする⑧加速させる⑨変革を習慣化させる)だが、そのプロセスにこだわらず、四つに凝縮した。展示会当日のブース運営を成功させることは、準備を万全にすることであり、翌年への有効活用、着実な営業成果に結びつけることができるからだ。ちなみに私が最も得意なことは、モチベーションを上げるというあいまいな指標を数字や営業利益という数字に結び付けることだ。
成功法則その1 チームを作る
ファベックス出展チームはどの会社もできているはずだが、チームとしての意識を醸成することが大切だ。出展が近づいてきたら、定期的に集まる、集まったら一緒に運動をする、ゲームをするといったことで仲間意識を高めていく。人材開発では、チェックイン、チェックアウトというのをよく行っている。「今日の気分はどう」と二人一組で行う場合もあれば、5人グループで数秒ずつ今日の気分を語ることもある。ある製薬会社では、会議の前に必ずストレッチ体操をすると決めている。健康経営推進の取組みの一例だが、一緒に動くことで気持ちもカラダもほぐれる。チーム一人ひとりの体調を気遣う視点を養うことができるという意味で有効だ。
このように日々実践する一つひとつの行為は単純にするのだが、裏には筋の通った原則を埋め込むのがポイントだ。「このチームの存在意義はなにか(何のために集まってここにいるのか)」「目的を達成する戦略はなにか(どんな道筋を立てていくのか、スケジュールは見えているか)」「チームにとって最も大切な目標はなにか(どうなったら成功なのか、燃えることができる目標か)」「チームが尊重すべき約束はなにか(ルールは明確か、遊び心は入っているか)」。私自身の300チーム以上の経験を振り返ると、これをみんなで作り上げるから、やらされ感から解放されて、自由闊達なチーム運営が可能になったと思う。営業チームのミッションは明確だろうか、そこから生まれる目標、戦略、戦術、業務プロセス、などが顧客ニーズに向いているだろうか――と問い続けていくこと。これがチームづくりの原則だ。
成功法則その2 ルールを決めてゲーム性を組み込む
当日はどのブースも作業に追われている感が否めない。特に午後になると表情に疲れが見え始める。それもそのはずで、午前中はお昼の休憩まで頑張ろうとなるものの、午後は1時から5時までとなれば、4時間になる。作業という意識で4時間エネルギーを維持するのは難しい。マネージャークラスは、「お昼も取れない」といった声は多数あった。ここでルールと厳格な運営、そしてゲーム性を組み込むことを提案したい。
例えば、1日目は昼休み1時間のみ、2日目は昼休み45分と午後3時に15分休憩、3日目は昼休み30分と午後3時休憩30分。それぞれどのケースがよいか比較する。どの休憩のパターンが最高にパフォーマンスを発揮することができるのかを分析してみる。スポーツのルールを思い浮かべてほしい。各競技で休憩時間は決まっている。休まずプレイしたらパフォーマンスは当然落ちる。最高のパフォーマンスを引出すための休憩ルールを決めるということだ。あるいは、もっと休憩時間を取るルールでもいい。案外その方がパフォーマンスが上がるかもしれないからだ。休憩を増やすと捌き切れない、待たせてしまう、商談機会を逸すると思うかもしれないがその分工夫も生まれる。
もちろん、ルールは休憩に限らない。プレゼン30秒、60秒、90秒パターンで比較していくのもよい。ここで言いたいことは、自分達はワークをしているのではなくプレイをしているのだ、という意識作り。プレイヤーとして最高のものを出そう――と意識していくことで疲れない状態になっていく。特に若手はゲーム好きだ。目標明確にするととんでもないことが起きる。私が営業変革を手掛けたある流通大手のアルバイトは、5億8000万円の経費削減策を出してきた。彼らが発表時にパワーポイントに表示した言葉は「無敵」。私も感動した言葉だ。パートやアルバイトの潜在力を引出すプレイにチャレンジする発想でもよいだろう。
成功法則その3 こまめにフィードバックをする
フィードバックという言葉は上司部下コミュニケーションで使われるようになってきたが、日常に根付いている会社はまだ少ないと感じる。最近ではフィードバックだけをテーマにした書籍も出てくるほど盛んだ。年収数億円のある著名スポーツ選手はフィードバックを頻繁に行っているという。ゲームごとに自分たちのゲームの録画を見てよい点と改善点のフィードバックを受けている。
仕事においては、上司が部下の仕事を評価し、良かった点、改善した方がよい点を指摘する。展示会において活用するなら、必ず帰る前に一人ひとりにフィードバックをすることがその日の疲れを癒し、翌日へのエネルギーとなる。例えば、「〇〇さん、自分からどんどん笑顔で声をかけていて良かったね。明日は〇〇と一言加えてみると反応を引き出せると思うよ」「今度はこれに挑戦してみよう」。言われた方は「自分をきちんと見ていてくれる」と思うことで士気が上がる。ここで忘れてはいけないポイントは、良かった点、改善した方がよい点を必ずセットにして声掛けをすること。どちらか一方では足りない。
朝礼ではだめなのか、と質問されたが、私の経験値からするとフィードバックは朝礼ではなく、当日中にやった方がよい。自分で考える時間が必要だからだ。言われてもすぐにはできない。言われて自分の中で熟成して工夫が生まれる。だから当日中がよい。途中で帰宅するアルバイトに対しても同じようにフィードバックすることを勧めたい。
成功法則その4 達成度に応じた打ち上げで来年への闘志を吹き込む
多くの会社で打ち上げは行っていると思うが、この打ち上げをどう設計するかでフォローや来年に向けての組み立てが決まってくる。勝敗を明確にすること、達成度合いに応じて打ち上げ場所を変えること。勝ち負けを明確にしない文化が最近ははやっているが、それはかえって逆効果。300チーム以上手掛けて営業利益を520%まで出してきた私は迷うことなく自信をもって言い切りたい。プロジェクト終了後、達成度合い別に必ず打ち上げを用意するが、そこで何を提示するかで明らかに社員の目、動き、提案力が変わった現場に何度も立ち会ってきた。
勝敗が明確な方が数字の実績は出るし、スタッフも楽しい。お客さまへの対応もよくなると断言する。体育祭を思い出してほしい。勝ちたいから、人は燃えるし、頑張るし、成長する。躊躇なく、勝敗が明確な打ち上げを設定してほしい。これが次のフォローへの意欲となり、来年に向けての闘志となり、確実な数字の成長と人の成長を促していくだろう。(アイマム代表取締役社長嶋谷光洋、food@i-mam.co.jp)
嶋谷光洋氏(しまたに・みつひろ) アイマム代表取締役社長。大阪府出身。立命館大学経営学部卒。独立系商社のOA機器法人営業部でトップセールスの実績を残す。その後、人財育成コンサルティング会社にて育成企画と新規開拓営業に従事。2000年アイマムを設立して独立。人が育つチームづくりのためにアクションラーニング、マーケティング、マネジメントを総合したプログラム開発や講師、コンサルタントの育成に尽力。10年「180日間営業変革プロジェクト」を開発。15年チームマーケティングを提唱。現在、食品・流通・情報通信など各業界トップクラスの企業研修・コンサルティングを手掛けている。